「明日に向って撃て!」(+「ワイルドバンチ」)

 

 午前十時の映画祭で観てきました、ポール・ニューマンロバート・レッドフォード競演の往年の名作です。監督は後に「スティング」でも二人と組むことになるジョージ・ロイ・ヒル。実在したアメリカの伝説的なアウトローブッチ・キャシディサンダンス・キッドの二人*1を描いた西部劇(一応)です。「壁の穴強盗団」と呼ばれた強盗団を率い、次々と列車強盗や銀行強盗を繰り返した二人ですが、彼らは別名「ワイルドバンチ強盗団」とも呼ばれていました。同年(1969年)に公開されたサム・ペキンパーの名作「ワイルドバンチ」と同じ題材を映画化したものというわけです。もっとも「ワイルドバンチ」の方にはブッチもキッドも出てきませんから、モチーフとして実在の「ワイルドバンチ」の名前を拝借したという程度の繋がりだと思われますが。
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 さて、「ワイルドバンチ」はウィリアム・ホールデン演じる主人公パイク・ビショップがコルト・ガバメントM1911を手にしていたことからもわかるように、第一次世界大戦前夜、ほとんど西部劇の時代とは呼べない時代を舞台にしていた作品でしたが、本作もまた20世紀に片足を突っ込んだ時代を舞台にしているようです。劇中では明確に年代は語られませんが、登場人物たちはスペインとの戦争を話題にしているので、おそらく1898年の米西戦争の頃の物語なのでしょう。アメリカ西部のフロンティアラインの消滅が1890年頃、もはやアウトローたちの活躍の舞台は消え去ろうとしている時代です。「ワイルドバンチ」は、時代に取り残された者たちへの哀愁、「滅びの美学」のようなものを感じさせる内容でしたが、一方の「明日に向って撃て!」からはそういったものはあまり感じることはできません。はしっこい知恵者ブッチとクールな早撃ち名人キッドのやり取りは都会的で洒落た雰囲気で、ピンチに陥っても冗談を飛ばしあう二人の姿はさながら青春映画の登場人物のごとく爽やかです。汗と埃にまみれた「漢の世界」を描いた「ワイルドバンチ」とはどこまでも対照的ですが、これはどっちがいい悪いの話ではなく、それぞれにキャスト・スタッフの良さをいかした結果なんでしょうね。
 二作とも、映画のラストでは逃亡先(「ワイルドバンチ」はメキシコ、「明日に向って撃て!」はボリビア)で地元の軍隊と壮絶な銃撃戦を繰り広げますが、ほとんど死を覚悟しながら決闘に向かう「ワイルドバンチ」に対し、偶発的に戦闘が起こりながら、最後の瞬間まで「どうにかなるさ」という雰囲気を捨てない「明日に向って撃て!」では、シチュエーションは似ていても、観客に与える印象はだいぶ違ったものになっています。アクションシーンの迫力では機関銃まで持ち出した「ワイルドバンチ」に分がありますが、互いを援護しながら二人で立ち回る「明日に向って撃て!」の方も掛け合いの妙が小気味よくていいですね。なんだか比較ばかりになってしまいましたが、見比べてみるのも面白い二作品です。

*1:最近だと平野耕太の漫画『ドリフターズ』にも登場していますね。